
侯爵 松平 康國(まつだいら・やすくに)が書いた「予の実験せる自彊術」と云う本が大正9年に出版されているが、十文字大元氏を誉め称える言葉が載っています。

中井先生の書いた自彊術の本は、運動に熱心な人達に読ませる目的であって、今日まで広告もされず販売も許されなかったので世間には知られていず、また自彊術の効力がひとつも書かれていない。やらない人には自彊術の良さが伝わっていなかった。
自彊術が世に普及しないことは、深く遺憾とする所であって、一日も早く一人も多く知ってほしく、自彊術とは如何なるものかを世に紹介する次第である。
世の中には大げさな看板を出して、何法何術と名乗って居る者は、入会金とか授業料とか云って50円の100円を取る者がある。通信料を取る者がある。金持ちや貴顕(きけん-身分が高く、名声のあること)に取り入ろうとする者がある。
しかるに十文字君は、自ら巨万の私財をなげうって造った道場を一般の人に開放して、修繕も維持も皆自分でその費用を負担され、道場に来て練習する者からは一銭の費用や報酬をも受け取らず、「運動で身体の良くなった者が、自分と同じ様な病弱者に同情して、一人でも多く誘導するこそ、この上もない報酬である」と言われている。
中井先生の話に「自分がこれまで大病を癒してやった金持ちは幾人あるか知れないが、いずれも治ったら必ず御礼の為に道場を建てますと言いながら、一人もその約束を履行した者はない。しかるに十文字君だけは言ったことを忘れず、しかも金も惜しまずこのような立派な道場を建てられたのは見上げた方である」と。
松平 康國 著「予の実験せる自彊術」から流用転載 イラスト:みなさぶろう